- 機能・使い方
- 無線
IPトランシーバーの仕組みや特徴・活用方法を解説!おすすめ無線手段も紹介
2010年以降から普及がはじまったIPトランシーバーは、現在では無線機販売店の主要ラインナップを飾っています。
しかし、これまで業務用無線機を使っていた企業や、これから初めて無線通信機器の導入を検討している人は、IPトランシーバーについて、いまいちピンとこないところもあるでしょう。
そこで、ここではIPトランシーバーの仕組みを分かりやすく説明するとともに、特徴や利用シーン、各種無線機の料金比較をご紹介します。
IPトランシーバーとは?仕組みを解説
IPトランシーバーは携帯電話のインターネット回線を利用して電波の送受信をする仕組みが特徴的で、データ方式はVoIPと呼ばれるIPプロトコルの技術を利用してデジタル送信を行います。
ちなみにVoIPはLINEやFacebook、Skypeや後述するIPトランシーバーにも適用されており、スマホやパソコンといったデジタル通信機器で通話する際の常套技術となっています。
IPトランシーバーは業務用無線機や特小と仕組みが違う?
IPトランシーバーは従来までの業務用無線機と比較されがちですが、上述したように、利用する電波の仕組みが異なります。
IPトランシーバーは携帯電話のインターネット回線を利用するため、基地局を介して電波を全国に送信することができますが、現在幅広く利用されている業務用簡易無線機や特定小電力トランシーバーは、基地局を介さず端末同士で電波の送受信を行います。
従来の無線機は送信する電波の周波数に限りがあるため、特定小電力トランシーバーはチャンネル数が11~20チャンネル、業務用簡易無線機で35~65チャンネルと制限されていました。しかし、IPトランシーバーは数百から1000に及ぶチャンネル設定・グループ分けを行うことができます。
通常の業務ではチャンネル数は使っても10チャンネル(グループ)未満ですが、大規模イベントや国際大会、国際会議の類では厳しくチャンネル制限されるので、イベント設営やコンベンション運営の業界ではIP無線機が重宝される傾向にあります。
仕組みから考えるIPトランシーバーのメリット
上記ではIPトランシーバーの簡単な仕組みを解説しましたが、実際の業務にあたっては、従来の無線機と比較してどのようなメリット・恩恵を受けることができるのでしょうか。
最大のメリットはIPトランシーバーの通話距離
IPトランシーバーは2000年代初頭から製品自体は発売されていましたが、通信が不安定だったため、全国で通信が可能といっても、実際は通じるエリアが限られていました。
山岳高原地帯が通じないのはもちろん、通信キャリアの基地局が少ない時代は、沿岸地域や過疎化が進んだ人口が少ないエリアは町中でも通話ができませんでした。
しかし、昨今はWi-Fi規格や3G/4Gの進歩を受けて、全国のほとんどのエリアを基地局がカバーできるようになりました。そのため、IPトランシーバーは事実上全国通信が可能となり、非常に高い利便性を持つようになりました。
一方で業務用簡易無線機は1~3km、特定小電力トランシーバーは100~300mと通信範囲は制限されています。業務用無線や特定小電力トランシーバーは特定の同一エリア内における通信を想定している一方で、IP無線機は全国各所の支店や営業所とも連絡がとれるので、日頃の業務連絡だけではなく、災害時の危機管理対策にも適しています。
IPトランシーバーはMCAの発展した無線機
スマホの普及とWi-Fiの拡大、各種通信規格の高速化により、2015年頃から急速に浸透したIPトランシーバーですが、それ以前は「MCA・JSMR」が全国通信可能な無線通信機器として企業に重宝されていました。
ただし、いずれも基地局を介する通信手段となりますが、電波が非常に不安定で、都心ではなかなか通じないことがあるのが難点です。現在はMCAもデジタル化が進みましたが、それでも通信状態は他の無線機や携帯電話と比較しても良好とは言えない状況です。
混信や秘匿性は考慮すべきか。IPトランシーバーとその他無線機の比較
IPトランシーバーの仕組みは、デジタル信号に変換してIPアドレスに基づいて送信するインターネットプロトコルを利用します。そのため、混信の心配はなく、高い秘匿性で送受信をすることが可能です。
ただし、業務用簡易無線機も現在はデジタル化が進み、アナログ無線は2024年に終了することが決まっています。混信や秘匿性に関しては、IPトランシーバーも業務用デジタル簡易無線機も特段懸念する必要はないと言えます。
IPトランシーバーのデメリット
IPトランシーバーの最大のデメリットであった「通信ができない圏外エリア」も、昨今は少なくなってきているため、普段の業務中に断続的に通信ができなくなることはそれほどないでしょう。
しかし、一般的なIPトランシーバーは業務用簡易無線機と同じ見た目と重量をしているため、導入する際は業界・業種を選ぶ可能性があります。
ボディや重量は業務用無線機と同じ
業務用無線機におけるIP無線機のボディは簡易無線機と見た目はほぼ変わりません。重量は250g前後とスマホの2~2.5倍の重さとなります。
業務で使用する際は耳掛けイヤフォンマイクで会話をするため、無線機本体は背面にベルトクリップを付けて腰ベルトに装着します。しかし、女性スタッフの制服はベルトのないデザインが多いため、スカートやズボンがずり落ちてしまう危険性があり、見た目もよくありません。
IPトランシーバーはあくまでも「PTT」方式
一般的なIPトランシーバーも無線機・インカムと同様に交互通話となるPTT方式となります。そのため、相手が送信中(自分が電波を受信中)は話に割り込むことができません。
ちなみに、機種によって同時通話機能を備えているものもありますが、電波法で規制されているため、1度の同時通話時間は最大5分となります。
IPトランシーバーの課題を解決する「スマホアプリ」とは?
IPトランシーバーは上述したように全国通信が可能な利点は大きいですが、それ以外の業務レベルでの使い勝手は、従来の簡易無線機と大差ないことが分かります。
そこでおすすめしたいのが、最新のIPトランシーバーである「スマホアプリ」です。
IPトランシーバーアプリの特徴
IPトランシーバーアプリは、スマホに専用アプリをインストールして使用します。機能のアップデートもスマホ上で更新するだけなので、実機のように「新製品に買い替える」という概念がありません。
また、業務用無線機や特定小電力トランシーバーと異なり、同時通話で話すことができるので、スマホで普段している会話と同じ感覚で1対複数のグループ通話が可能となります。
IPトランシーバーアプリの利用シーン
IPトランシーバーアプリの利用シーンは多岐に及びます。スマホの重量は120g前後のため、ジャケットの内ポケットやズボンのサイドポケットにもおさめることができますので、あらゆるシーンに最適です。
ブライダルや各種設営・運営業界のような女性が活躍する業種はもちろん、飲食店や小売といったアルバイトが多い職場にもおすすめです。Z世代を中心とした若い人も簡単に扱うことができるのは管理者にとっては大きな魅力です。
IPトランシーバーと無線機の料金の比較と相場
IPトランシーバーの導入を実際に検討するにあたって、気になるのが購入する際の料金相場と維持費です。
下記ではIPトランシーバー・業務用簡易無線機・特定小電力トランシーバーの3種の無線機の料金と維持費の仕組みを解説します。
IPトランシーバーの料金相場と維持費
IPトランシーバーは無線機本体が9万円前後となりますが、別途通信キャリアに加入して毎月の基本使用料を支払わなければなりません。基本使用料はキャリアによって異なりますが、1台2000円前後が目安となります。
一方、IPトランシーバーをスマホアプリで使う場合は、サブスクリプションへの登録が必要となります。こちらはプランによって料金が上下しますが、平均相場は2500円程度/台です。
業務用簡易無線機の料金相場と維持費
業務用簡易無線機は本体価格が9万円前後となります。4wないし5wといった高出力を飛ばすので電池の消費が激しく、予備バッテリーも常備しておくのが一般的です。
また、業務に使うイヤフォンマイクは有線となるため、コードが引っかかってしまったりすると、簡単に断線してしまう欠点がありますので、年間を通して本体1台につき2~5本程度を備品として購入する予算も必要となるでしょう。
また、業務用簡易無線機はリース契約で購入するのも一般的です。ただし、一度リース契約を交わしてしまうと、償却期間である5~6年は途中解約できないため使い続けなければなりません。
リース期間中に業務形態が変わり、簡易無線では賄えない広範囲のエリアの通信が求められてもどうすることもできないので、リースの契約の有無には細心の注意を払ってください。
特定小電力トランシーバーの料金相場と毎月のランニングコスト
特定小電力トランシーバーの本体価格は安いものだと1万円を切る製品もありますが、会社単位で購入されているのは、1万5000円から2万円前後の小型の機種となります。
特定小電力トランシーバーは本体価格は安いですが、単三電池や充電池の消費が激しく、またイヤフォンマイクのコードは簡易無線機よりも細いため、飲食店では毎月のように買い替えが発生します。
管理者は毎日業務終了後に本体とイヤフォンマイクを回収して、断線の有無をチェックしなければなりませんし、店舗単位で備品として購入するには決して安くはありません。
そのため、初期導入費用は安価ですが、毎月のランニングコストは意外とかかるのが特定小電力トランシーバーの特徴と言えます。
無線機販売店のレンタルプランのメリットとデメリット
上記でご紹介した無線機は、IPトランシーバーを含め全国の無線機販売店で購入できます。無線機販売店では無線通信機器のレンタルプランも用意されていますが、料金は割高のため、普段の業務で利用する場合は購入するのが普通です。
数日間のイベントのみ使用したり、株主総会や大規模な会議で一時的に利用するときは、レンタルプランが役立つでしょう。
無線機の種類を決める前に利用シーンと自社の課題を見直そう
今回はIPトランシーバーの仕組みを解説するとともに、簡易無線機や特定小電力トランシーバーと比較した際の優位性や機能の違いをご紹介しました。
一概にどの業種や業務においてもIPトランシーバーがおすすめというわけではありません。まずは自社がスタッフ間の通信手段でどのような問題に直面しているのかを見直し、その上で最適な無線機・トランシーバーを選択するようにしましょう。