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自治体DXとは?取り組むべき施策・現状の課題や事例を徹底解説
昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を耳にする機会が増えてきましたよね。DXと聞くと、企業・団体の業務フロー改善というイメージがありますが、実はこのところ自治体においても推進がなされています。
では、自治体DXとは具体的に何を実現するための施策なのでしょうか?そこで今回は、自治体DXとは何かについて総務省が唱える計画概要・活用事例とともに解説します。
自治体DX導入を検討するにあたって必要な知識を習得したい責任者様のご参考になればと思います。
本記事をきっかけに自治体DXへの理解を深めていただければ幸いです。
そもそもDXって何?
まずはじめにDXとは何かを整理しましょう。DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語です。
具体的には企業・団体が最新のデジタルテクノロジーを活用し、製品・サービスなどのプロダクトやビジネスモデル、業務フローなどを変革させることを指します。
なお、経済産業省によると、DXの最終的な着地点は「これまでの業務プロセスを抜本的に見直し、競争上の優位性を確立すること」と明示されています。
自治体におけるDXとは
自治体DXとは、DXの主体を企業・団体から自治体に置き換えたものです。
つまり、自治体DXの概要は「地方自治体の行政サービス・各種データ管理などに最新のデジタルツールなどを用いて従来の手続きや業務フロー、情報管理などを変革する一連の試み」であると言えますね。
自治体DXによるメリット
では、自治体DXを進めるとどのようなメリットが得られるのでしょうか?今回は以下3つの例を挙げてみました。
・地域情報やデータの管理・活用がしやすくなる
・上記により職員の業務負担を軽減
・地域に関する問題解決を実現し、住民の生活をより良くする
今回は、窓口手続きのオンライン化・待機児童への対応を具体例としてご紹介します。
自治体DXというワードを聞くと、庁舎内での窓口手続きオンライン化をイメージしやすいのではないでしょうか。
具体例としては、DXツール導入により従来の窓口手続きを可能な限りオンラインで完結することで、住民が庁舎に訪れる手間や待ち時間などをカットすることができます。
また、行政側の視点で考えた場合にも対応時間の短縮やペーパーレス化、適切な行政サービスの提供などが格段に改善されることでしょう。
さらに昨今では、待機児童も問題になっていますよね。自治体DX推進はこのような問題の解決にも役立つのです。
例えば調査にDXツールを用いた場合、該当エリアの子どもの人数と保育施設をデータ化し待機児童の多いエリアを明らかにすることでより詳細な資料を作成・活用できるというメリットがあります。
以上をふまえると自治体DXは地域住民の負担軽減だけでなく、庁舎職員の働き方改革にも繋がることがわかりますね。
自治体DXが必要とされる理由
自治体DXが必要とされる背景・根底には、少子高齢化による人材不足・予算カットという問題があります。昨今では社会全体を通して、少子高齢化による労働人口の減少が問題視されていますよね。
そのため行政も一般企業と同じく慢性的な人員不足に陥っているという現実があります。なお、総務省の調査によると2020年4月時点での地方公務員数は280万661人でありピークである1994年と比較すると、およそ48万人ほど減少している事がわかっているのです。
さらに、少子高齢化・人材不足に伴う納税額の減少により自治体の予算縮小も懸念されているため、減額後にDXツールの導入を試みたとしても遅い可能性があります。
また、一般企業では既にペーパーレス化やITツール導入などが推進される中、営利団体ではない行政では未だに紙文化やハンコによる稟議など、非効率なアナログ業務が行われています。
しかし、各自治体の庁舎では災害時や政策変更などに伴い業務が変更・追加されていくのが常です。そのため人員不足が深刻化しているのにもかかわらず、アナログでは追いつかないほどの業務量増加が年々増加傾向にあるのです。
以上の事由から自治体DXは行政にとって1日も早い推進が必要とされており、少子高齢化・人員不足が進んでいる今こそ導入のタイミングであると言えるでしょう。
総務省が唱える自治体が取り組むべき6つの施策とは
ここからは、自治体DX推進に向けた政府の動向を整理しましょう。総務省が唱える自治体DX推進計画概要によると取り組むべき施策が以下6つに大別されています。
なお、本計画の対象期間は2021年1月〜2026年3月です。
・自治体情報システムの標準化・共通化
・マイナンバーカードの普及促進
・行政手続のオンライン化
・AI・RPAの利用促進
・テレワーク促進・セキュリティ対策の徹底
ここからは以上それぞれについて解説します。
参考資料:自治体DX推進計画概要 p.4-5.
① 自治体情報システムの標準化・共通化
従来では自治体情報システム(基幹系17業務システム)構築・運用が各自治体ベースで任されており、自治体によってベンダーやシステムの仕様が異なっていました。
そのため、1つ目の施策として現在アナログで行っている基幹系17業務システムを国が策定した新システム「Gov-Cloud(仮称)」に移行し、標準化・共通化を目指すという内容が明示されています。
参考資料:自治体DX推進計画概要 p. 8-10.
② マイナンバーカードの普及促進
2つ目の施策は、マイナンバーカードの促進に関するものです。現在もなかなか普及が進んでいないマイナンバーカードですが、交付円滑化計画に基づいて保有のメリットを増やし、2022年度末にはほとんどの国民が保有している状態を目指そうという内容を明示しています。
今回は参考として、現在マイナンバーカードで可能な手続きを以下にまとめました。
以上の内容から、マイナンバーカードは地域住民の各種手続きにおける利便性を高め、より良い生活を実現し行政側の業務効率化にも有効なツールであると理解できるでしょう。
しかし、現状ではマイナンバーカードについて「全体像が掴めない」「情報漏洩のリスクがあるのでは?」「保有のメリット・デメリットがわからない」などの理由で制度そのものを疑問視する声も少なくはありません。
マイナンバーカードの普及を促進するためには、住民への適切なアナウンス・行政と住民とのコミュニケーションがなされる必要があります。
参考資料:自治体DX推進計画概要 p.11-15.
③ 自治体の行政手続のオンライン化
地域住民の生活においては、仕事や育児・介護、病気やケガなどで庁舎に訪問しにくいという場合も多々あることでしょう。
そこで3つ目の施策では、行政における窓口手続きのオンライン化を明示しています。
こちらの施策も2022年度末を目標に、マイナンバーカード利用での申請が今後想定される手続き(31手続)を中心に専用システム(マイナポータル)によるオンライン完結型を目指す施策です。
なお、31手続の詳細は以下の通りです。
行政手続のオンライン化は住民と行政の双方にメリットがあるため、自治体DXの中でもより積極的な取り組みが進められています。詳細はこのあとの事例紹介をチェックしてみてくださいね。
参考資料:自治体DX推進計画概要 p.16-18.
④ AI・RPAの利用推進
まずはAI・RPAとは何かについて整理しましょう。
AIとは人工知能(Artificial Intelligence)の略語です。主にコンピューター上にてデータ分析や判断・学習を行い、人間の知的能力を模倣する技術を指します。
一方でRPAはロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation)の略語で、従来は人間のみ遂行可能であるとされていた事務作業を自動化するソフトウェアロボットを指しています。
以上をふまえ、4つ目の施策では自治体におけるバックオフィス業務へのAI・RPA利用促進について明示されています。
具体的には「①自治体情報システムの標準化・共通化」と「③行政手続のオンライン化」による業務改善を機に、総務省作成のAI・RPA導入ガイドブックに基づいてシステム導入・活用の推進を目指すものです。
なお、自治体へのAI・RPA利用促進は新システムやクラウドへの移行作業も自動化できるので、スムーズで効率的なDX推進にも有効であると言えるでしょう。各種ガイドブックの内容は以下をチェックしてみてくださいね。
自治体のAI活用・導入ガイドブック
自治体のRPA導入ガイドブック
参考資料:自治体DX推進計画概要 p.19-20.
⑤ テレワークの推進新型コロナウイルス感染拡大を機に一般企業ではテレワークを導入する企業が増えていますが、実は自治体運営でも同じく導入の取り組みが進められているのです。
そこで自治体DX・5つ目の施策では職員のテレワーク推進について明示されています。
なお、行政におけるテレワーク推進は「①自治体情報システムの標準化・共通化」と「③行政手続のオンライン化」による業務改善と同時進行する必要があるとのことです。
また、以上をふまえた上で「地⽅公共団体におけるテレワーク推進のための手引き」などにまとめられた導入事例・セキュリティポリシーガイドラインを参考にテレワークを導入・推進しようという施策です。
参考資料:自治体DX推進計画概要 p.21-25.
地⽅公共団体におけるテレワーク推進のための手引き
⑥ セキュリティ対策の徹底
自治体DXを進める上ではサイバー攻撃や個人情報流出を防止すべく、セキュリティ対策の徹底が必須になりますよね。
なお、総務省が定めた改定セキュリティポリシーガイドラインよると自治体における情報セキュリティは「各地方公共団体が保有する情報資産を守るにあたって自ら責任を持って確保すべきものであり、情報セキュリティポリシーも各地方公共団体が組織の実態に応じて自主的に策定するものである」と定義されています。
そこで、6つ目の施策では上記ガイドラインをもとに適切な見直しを行い、情報セキュリティ対策を徹底しようと明示されています。
参考資料:自治体DX推進計画概要 p.5.
改定セキュリティポリシーガイドライン
自治体が抱えるDX推進の課題
ここまでの内容を振り返ると、自治体DXには職員のITリテラシー向上・IT人材の確保が必要なことが理解できますね。しかし、自治体DXは思うように進んでいないのが現状ですよね。
そこで、ここからは自治体DX推進に関する課題をご紹介します。
職員の意識・ITリテラシーの問題
自治体DXは従来の目的である業務効率化に加え、住民にメリットを感じる事ができるよう積極的に最新のテクノロジーを導入・運用していく事が大切です。
そのため、DX推進には自治体の職員一人ひとりの意識やITリテラシーの向上が必要不可欠になりますよね。
しかし、庁舎などの自治体運営業務ではアナログ文化が根強く残っており、パソコンや表計算ソフトは使用していても、申請に紙やハンコが必要であるなど住民にメリットのない段階でDXがストップしている現状があります。
また、これらに付随してIT人材の不足も問題視されており、まずは専門の知見がある人材確保が必要であることが理解できますね。
自治体の職員が意識を持つようになり、人材不足が解消されたとしても課題解決がなされるわけではありません。そこで懸念されるのが、権限に関する問題です。
現状では自治体DX全体を俯瞰できる明確なリーダーが存在しておらず、各自治体でDX化を始めようとしても業務に権限が付与されておらず、案件を進めることができないというケースも存在します。
また、現在各省庁と自治体では各自別のシステムを構築・運用していることもDXを妨げています。
以上の事由から、今後自治体DXをスムーズに進める上ではIT人材の確保および、施策の1つである「①自治体情報システムの標準化・共通化」は特に急務であると言えるでしょう。
参考資料:自治体DX推進計画概要
自治体のDX活用・人材確保の事例をご紹介
ここまでの内容をふまえ、最後に各自治体のDX活用事例をご紹介します。
今回はその中でも、行政手続のオンライン化に関する事例をピックアップしまとめました。また、最後にはDX推進の人材確保に関する事例もご紹介。ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
市役所の窓口手続きをデジタルに移行 【北海道北見市】
北海道北見市では「業務の効率化による書かない窓口、ワンストップ窓口の実現」と称し、市役所のバックヤードおよび窓口での手続きをシステム化しました。
具体的な取り組みBPRを主体としながら、RPAの導入により職員の業務負担を軽減すべく以下の3つを実行したものです。BPRとはビジネスプロセス・リエンジニアリングの略語で、主に現状の業務内容・手順・チームの構造などを根本的に見直し、再設計する作業を指します。
BPR/UI・UXの改善(書かない窓口の実施)庁舎職員が来庁者の本人確認を行い、発行したい証明書などをヒアリングしながらシステムを利用し、申請書の作成をサポート。これにより来庁した住民は申請書にサインするだけで良いので、申請手続きが簡略化したそうです。
BPR/業務の集約(ワンストップ窓口の実施)庁舎内で別の課の手続きを住民異動窓口に集約。来庁者が課を移動するごとに都度発生する本人確認や申請・異動内容の説明といった手間をなくすことができました。なお、各種手続きは窓口支援システムの導入により自動判定され、住民窓口で代理受付・案内がなされているそうです。
BPRの業務利用各種証明書の交付・申請および住民異動届のデジタルデータの活用を実施。さらに、RPAツールの導入により証明書交付および住民異動に伴う入力業務を一部自動化する事ができたそうです。
参考資料:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】 p.36.
学童保育関係の手続きをオンライン化【広島県呉市】
広島県呉市では、2021年4月から学童保育を利用する保護者向けに各種手続きをオンライン化しました。
なお、この取り組みでは大規模な業務フローの変更を要することを想定し、まずは基本的な申請手続き(入会・変更など)のオンライン化を実施。
オンライン申請を行った保護者からは「提出のたびに児童館へ行く必要がないので便利」「手続きを行うために、仕事を休んで来庁する必要がなくなってよかった」といった声が届いているそうです。
効果・実績上記取り組みにより2021年4月の開始以降、全ての保護者からのオンライン申請を実現しました。また、各施設での受付事務は面接を除きゼロにする事ができたので、職員の業務負担を減らすことにも成功しています。
さらに広島県呉市では今後、段階的な実施で得た知見を生かし、今後は児童手当・乳幼児等医療助成金・保育所入所に伴う手続きのオンライン化も予定しているそうです。
参考資料:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】 p.39.
勤怠管理システムによりテレワーク推進 【京都府】
京都府ではテクノロジーを活用した業務改善の一環として、出勤簿廃止によるペーパーレス化とテレワークの促進が実施されました。
導入のきっかけ従来は紙の出勤簿を使用していたため、新型コロナウイルス感染拡大によるテレワーク実施に伴う新たな勤怠管理システムが必要になった。
具体的な取り組みテレワークで稼働する職員のログイン・ログアウト情報を既存システムに連携し、出勤状況を一元管理するシステムに改修。
効果・実績勤怠管理者が各職員の出勤状況を把握しやすくなり、職員が紙に記入する必要もなくなったため負担が軽減されたそうです。また、紙の出勤簿を廃止しペーパーレス化も実現する事ができました。
参考資料:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】 p.33.
県が確保したICTの専門家を市町村へ派遣【宮崎県・福島県・静岡県】
最後に、DX推進のための人材確保に関する取り組み事例をご紹介します。
宮城県・福島県・静岡県では各自治体のニーズを考慮した上で、高度なICTスキルを保有した人材を県が確保することで人的側面から市町村のサポートを実施しています。また、派遣に伴う費用は県が負担する形で行われているようです。
宮城県では各市町村に「デジタルみやぎ推進アドバイザー」を派遣し、以下の支援メニューを民間のITコンサルタントに委託しています。
・県のシステム調達に関する相談・行政職員を対象にセキュリティ研修を実施
・技術的相談に対する助言・支援
推進アドバイザーは週4日勤務で県に関する業務の他、市町村の依頼に応じIT・DX推進に関するアドバイスを実施し、要望の合った自治体に向けて随時派遣されている状態です。
なお、令和2年度の実績状況としては、以下の自治体および支援メニューにてアドバイザーを派遣することができたそうです。
・仙台市:庁舎職員向けの研修を実施・登米市:技術的相談に対する助言・支援
・塩竈市:技術的相談に対する助言・支援
参考資料:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】 p.26.
福島県の取り組み・実績福島県では自治体と民間企業(IT・開発ベンダー等)で組織された「ふくしまICT利活用推進協議会」を設置。県が決定したDX推進に関する支援メニューをもとに、市町村が選択し各専門家の派遣(費用は県が負担)を行っています。
なお、現状は1市町村につき、以下の中から1つの支援メニューが選択可能。
・ICT・DX推進に向けた業務の見える化・課題分析
・AI・RPA導入・オープンデータ推進など
なお、令和2年度時点で会員の民間企業5社が22市町村に対し、合計27回のDX推進に関する解決策の提案を実施したそうです。
参考資料:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】 p.26.
静岡県の取り組み・実績静岡県では「ICTエキスパート」と称して知識・経験の豊富なデジタル人材の登録・派遣を実施しています。具体的には、上記派遣スタッフの専門的なコーディネート・アドバイスを通じて各自治体のDX化・ICT利活用を促進しようという事業内容です。
なお、静岡県では1団体につき年に5回までの派遣が可能で、登録リストにあるテーマについてDX推進・ICT活用に関するサポートを実施しています。主な例は以下の通りです。
・次世代を担う学生向けのICTリテラシー教室
・HP作成・SNS活用に関する研修の実施など
なお、上記取り組みを通し、令和2年度時点でICTエキスパート24人の登録を完了。14の市町に対して合計43回の派遣・サポート実施を行うことができたそうです。
参考資料:自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】 p.26.
自治体DXは利便性の高い行政サービスの実現につながる
いかがでしたでしょうか?今回は自治体DXとは何かについて、その背景や取り組むべき施策、活用事例の順でご紹介しました。
各自治体が抱える問題はさまざまですが、DXによる業務フロー改善は行政職員の負担軽減だけでなく、住民にとって利便性の高い行政サービス提供にも役立ちます。少子高齢化に伴うマンパワー不足・職員の意識改革など課題を抱える中、DX推進およびツール導入は今後ますます急務となることでしょう。
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