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介護の生産性向上委員会とは何か、目的・設置方法・活動内容を解説
2024年の介護報酬改定にて生産性向上委員会の義務化が定められました。委員会の活動は日常的な業務に組み込まれるため、職員への説明と理解が欠かせません。しかし現段階では委員会の規模や設置方法、活動の内容など、不透明な部分が多いかと思います。
ここでは生産性向上委員会とは何か、始め方から具体的な進め方について説明しています。定期的なアンケート調査やデータ測定があり複雑に感じられますが、適切に対処すれば生産性向上に係る加算や特例を申請することが可能です。ラーニング動画や分析ツールについても掲載していますのでお役立てください。
介護の生産性向上委員会とは
アナログ業務が多い介護業界では、慢性的な人手不足や離職、若者世代の介護離れが問題視されています。職場環境による職員の負担は介護サービスの質・安全に直結することから、厚生労働省(以下厚労省)は補助金を交付するなどして現場の生産性向上を推進してきました。
しかし介護業界全体でみると職員の負担軽減やサービスの質向上には繋がっていない状況です。
そこで令和6年介護報酬改定にて、“現場における課題を抽出及び分析した上で、 事業所の状況に応じて、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会” すなわち生産性向上委員会の設置を義務付けました。
対象となるサービスは、短期入所系サービス・居住系サービス・多機能系サービス・施設系サービスの各事業所です。2024年より設置が義務化され、本格的な実施までに3年の猶予が設けられました。
委員会のメンバーは責任者(リーダー)を筆頭に、実際に利用者のケアにあたる幅広い職種の職員で構成されます。外部の専門家の活用も問題ないとのこと。課題抽出から改善案の策定、実施計画を基に改善活動を実施し、効果を振り返るまでが一連の流れとなります。
職員へのアンケートやデータ入力、活動そのものに手間と時間を要するため、負担が大きいように感じますが、厚労省は生産性ガイドラインに従って継続的に委員会活動に取り組んでいる事業所を評価する加算や特例措置を設けています。
これによって職員の負担軽減とサービスの質向上に貢献するというメリット、より多くの加算を申請できるというメリット、同時に2つの利益を得ることが可能です。
なお、委員会の設置はかたちだけでは認められません。厚労省が定めたステップに従ってツールやシートに入力を行い、1年以内に1回それらのデータを厚労省に提出し、活動の実態を証明する必要があります。
1年間の記録が取り組みの実態を見える化する手段であり、加算を受けるために必要な情報となりますので、厚労省指定の資料を用いて適切な手順で活動を行いましょう。
生産性向上委員会の取り組み内容
委員会での活動内容は、準備→見える化→課題解決(PCDA)の3つのフェーズに分けられており、課題解決の取り組みには厚労省がおすすめする事例がいくつか紹介されています。
準備のフェーズでは委員会設置の目的や担当者の決定を行い、見える化のフェーズではPDCAを回すための課題や改善案を検討、計画を実行し改善活動を行うのが課題解決のフェーズです。
介護の生産性向上ガイドラインに基づく委員会運営のポイントを解説1.改善活動の準備
委員会を取り仕切るプロジェクトリーダーを決め、経営層が活動開始を宣言したのち生産性向上委員会の設置に至った背景や目的について動画や資料を通して伝えます。
ラーニング動画:生産性向上とは何か2.現場の課題を見える化
まずは自分たちの業務時間を客観的に評価して課題を抽出することが目的です。のちのPDCAサイクルで改善の成果を明確にするためにも、現状を計測する必要があります。
課題の把握
「課題把握抽出ツール」を使って職員が課題と感じていることをグラフにして分析します。職員の人数分ダウンロードできますので各々感じている課題を記入してもらいましょう。
次に課題分析シートや改善方針シート、進捗管理シートを使って具体的な実行計画や取組期間、担当者などを決め、スケジュールに従って活動を開始します。
業務時間の見える化
「業務の見える化ツール」を使って職員の業務時間をグラフ化し、削減できそうなムリ・ムダ・ムラ(3M)を見つけます。例えば「夜間の見回りに時間をかけすぎていないか」「入浴に時間がかかっている」「一つの業務に人数が裂かれている」など気になる点を抽出しましょう。
「課題把握抽出ツール」「業務の見える化ツール」は下記ページからDLできます。
介護分野における生産性向上の取組の進め方|厚生労働省3.PDCAを回す
フェーズ2で抽出した課題に対して、PDCAを開始しましょう。Plan(計画)、Do (実行)、Check(測定・評価)Action(対策・改善)の期間は3ヶ月で一周を目安とし、1年を通して活動を行います。
まずはじめにPlanでは厚労省が提供する測定ツールを使って
- 改善したい課題(例:帳票の確認作業に時間が割かれている)
- 得たい成果(例:利用者と向き合う時間の増加)
- 取組前と取組後の指標となるデータ(例:帳票にかかる作成時間 30分/日)
- 改善に向けたステップ(ステップ1 > ステップ2 > ステップ3 >ステップ4 > 完了)
などを事前に入力しておきます。
DoではPlanで測定ツールに入力した進捗状況(ステップ)や実行計画を確認しつつ改善活動に取り組みます。Checkで取り組み後の効果を再び測定ツールに入力して振り返りを行い、Actionで必要に応じて実行計画の練り直しを行うというのが一連の流れです。
フェーズ2の「見える化」で見つけた課題に対する具体的な改善方針がわからないという方は、厚労省がすすめる次の改善方針7つの中から実施してみましょう。
- 職場環境の整備
- 業務の明確化と役割分担
- 手順書の作成
- 記録・報告様式の工夫
- 情報共有の工夫
- OJTの仕組みづくり
- 理念・行動指針の徹底
全ての課題が7つの改善方針で解決できるわけではありませんが、介護事業所における課題の大部分はこちらの方針のいずれかを採用することで解決できるはずです。また上述した「測定ツール」にも7つの改善方針のいずれかを選択する項目がありますので下記ページからご確認ください。
介護分野における生産性向上の取組の進め方|厚生労働省生産性向上委員会で実施するPDCAサイクルの事例をご紹介します。
職場環境の整備(5S活動)
課題:用品の定位置が決まっていないため、どこに何が置かれているか分からず探す時間が1日で約5時間(1人あたり30分)費やされている
改善方針:整理整頓・清掃等(5S活動)によるムダな時間の削減や生産性向上については「職場環境の整備」を選択
Plan(計画) このPDCAサイクルでの目標設定やステップ2の課題の改善に有効なアイディアの実行計画を決めます。
目標:探索に1日30分かかっているところを15分まで減らす
計画:関連する用品を一箇所にまとめてみる・箱にラベルを貼り付ける
Do (実行) Planで実施すると決めた計画を実際に行ってみたり、実際の業務であったり整理する場所を用意します。
Check(測定・評価) ステップ2で可視化した業務時間が減っているのか、またはPlanした内容が実際に業務で行える現実的なものなのかを確かめましょう。
Action(改善・対策) Checkした中で改善点を洗い出し、活動を継続すべきか検討します。
改善:箱にラベルを貼り付けただけでは探す時間がほぼ変わらなかった・元の場所に返却されていないことがある
対策:職員への注意や配置換えなど、すぐに改善できることはその場で解決・引き続き改善が必要な場合はPlanを練り直す
記録・報告様式の工夫
帳票・報告書の見づらい点や煩雑な部分を話し合い、改善策について検討します。
課題:文字量が多く記載ルールがない・重要な情報がどこに書かれているのか分かりにくく、確認漏れやミスの件数が多い・記帳に時間がかかり退勤が遅れる
改善方針:データの見づらさ、煩雑さに関する課題であるため「記録・報告様式の工夫」を選択
Plan(計画) 実際の帳票や報告書を振り返りながら、これまでに発生した事象を交えながら解決策を出し合います。
目標:記帳にかかる時間を1人あたり1日10分削減・確認ミスの件数を1ヶ月で9割削減
計画:要点はマーカーで色分けする・誰がどこまで把握できているかが分かるよう確認者のサインを工夫する
Do (実行) Planしたアイディアを反映させます。必要に応じて新規のツールやフォーマットを用意するのも良いでしょう。
Check(測定・評価) 修正前と比べ記帳にかかる時間はどれだけ減っているか、計画通りに進んでいるかを確認します。成功要因と失敗要因についても分析しましょう。
Action(改善・対策) Checkから見えてきた改善案について話し合いを行い、今後もワークフローに取り入れるべきかを検討します。
改善:分類別にマーカーで6色に分けて囲っていたが、結果煩雑になり趣旨が重複する内容もあった・確認者のサインだけではいつ確認できたかが分からない
対策:重要度別に4色のマーカーを使用して色分けしてみる・サインだけでなく確認した時間も記入してみるなどPlan
情報共有の工夫
現在使用しているICTの課題を見つけ、他に組み合わせるツールを検討します。
課題:両手が塞がっている時はメッセージをすぐに開けないため確認が遅れ、重要な情報を漏らしてしまうことがある・タブレットやモニターの管理場所まで確認しに行く時間を含めて1日で約7時間(1人あたり約40分)発生する
改善方針:職員間のコミュニケーションや情報共有に課題があるため「情報共有の工夫」を選択
Plan(計画)
目標:1回目のサイクルでは情報確認に費やす時間を1日で約3時間(1人あたり約20分)に削減
計画:スマホインカムを使ってイヤフォンからメッセージを直接耳に通知してはどうか・遠隔から情報を知っているメンバーに話しかけてみる
※ICT機器の導入はコストはもちろん、慣れない期間の職員の業務負担や安全な介護サービスの提供に影響するため、入念な実行計画が必要です。その他、Wi-Fi・インターネットの整備など利用環境の確認も行いましょう。
Do (実行) 他の事業所の導入事例を参考にしたり、機器を提供する企業のサポートのもと、Planを実行に移します。
Check(測定・評価)
情報の取得にかかる時間や移動時間のデータを分析し、計画通りに進んでいるか確認を行います。
また、削減した時間をどの業務に充てているか調査することも重要です。仮に入居者のケアにあたる時間が1人あたり約20分増えたのであれば、 QOLの向上や利用者の安全確保に貢献しているという成功体験に繋がります。
Action(改善・対策) データをもとにスマホインカムの使用を継続するかを検討します。本格導入が決定した後、さらなる活用に向けて2回目のサイクルへと進みましょう。
改善:職員のほとんどがケアにあたっていて情報を流す人がいないことがある
対策:事務スタッフも使用してバックヤードから現場のスタッフに情報を流す・機能連携しているチャットツールの導入を検討するなどPlan
取組みの効果を見える化
PDCAを一巡し、効果を得た状態でステップ2の見える化に戻るためのプロセスです。計画を実行する前に記入した測定シートを使用し、取組後の効果を確認しましょう。測定シートの「ケアの質の向上に繋がったかを判定」で分析が行えます。
ここではステップ2の見える化で使用した進捗管理シートや測定シートを活用し、実行計画に無理はなかったか、担当者の采配に問題はなかったかなど、全体を振り返りまた一から計画を練り直しましょう。
生産性向上委員会の設置で取得できる加算と特例
生産性向上委員会を設置し、生産性向上の取組に係る加算の要件を満たすことで下記のような加算が取得可能です。
- 生産性向上推進加算
- 人員配置基準の特例的な柔軟化
- 介護職員等処遇改善加算 職場改善要件「生産性向上のための業務改善の取組」
生産性向上推進加算
生産性向上委員会を設置していてICT機器の導入による環境改善に取り組んでいる短期入所系サービス、居住系サービス、多機能系サービス、施設系サービスは生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡが取得可能となります。
生産性向上推進体制加算Ⅱ(10単位)の算定要件
生産性向上委員会で次のICT機器の導入について検討します。
①利用者の行動を感知して職員に通報できる機器・・・見守り機器
②職員間の連絡調整の迅速化に有効なICT機器・・・インカム
③介護記録の作成の効率化に有効なICT機器・・・介護記録ソフトウェアやスマートフォン※
※データの入力から 記録・保存・活用までを一元化できるもの
実際に導入してから効果が現れるまでの間、利用者の安全と職員の負担を軽減する対策を委員会で講じた上で、対象となるICT機器を1つ以上導入することが算定要件です。なおかつ委員会にて定期的に効果測定や活用方法の見直しを行い、1年以内に1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供を行う必要があります。
生産性向上推進体制加算Ⅰ(100単位)の算定要件
生産性向上推進体制加算Ⅰでは、加算Ⅱの要件を満たした上で、提出データから成果が確認できることが加算Ⅱとの大きな違いとなります。
加算Ⅱで述べた①②③のICT機器を全て導入(例:見守り機器+スマホインカム+介護記録ソフト)し、介護助手を活用するなどして役割分担を行うことが算定に必要な要件です。
業務の明確化や見直し、適切な人員配置が行えるレベルまでシステムを使いこなせていて、成果が確認できる定量データの提供が求められます。
生産性向上推進体制加算の詳しい申請方法については下記の記事をご覧ください。
生産性向上推進体制加算の取得条件や提出データ・申請方法の要点まとめ人員配置基準の特例的な柔軟化
ICT機器等のテクノロジーを複数活用し、職員間で適切な人員配置を行っている特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護には、人員配置基準の特例的な柔軟化が適用されます。
現行では利用者3名(※要介護10)に対して1名の職員配置が定められていましたが、要件を満たす場合には利用者3名に対して職員0.9名以上での運営が認められます。
例えば、利用者が100名の場合は、職員30名体制での介護支援が可能です。現行と比べ約3名の人員削減となります。※3:0.9 = 100:30
取得の要件は上述した「生産性向上推進体制加算Ⅰ」の内容と同等です。また、3ヶ月間以上の試験運用期間を設け、試行期間中は通常の人員配置基準を遵守するよう注意喚起しています。
委員会で複数のICTの活用を検討し、安全対策を練った上で3ヶ月はシステムの試験運用期間を設け、成果がデータとして確認できた場合に特例的に認められる制度となります。
介護職員等処遇改善加算 職場改善要件「生産性向上のための業務改善の取組」
2024年の介護報酬改定では処遇改善加算が一本化され、合わせて算定要件である職場改善要件の見直しが行われました。職場改善要件の中でも「生産性向上のための業務改善の取組区分」はチェック項目が増えて条件も複雑になりましたが、生産性向上委員会の設置およびICTの活用を行っていれば問題なくクリアすることができます。
また、上述した生産性向上推進体制加算Ⅰ(100単位)や人員配置基準の特例的な柔軟化の要件を満たしていれば、特例的に「生産性向上のための業務改善の取組区分」の条件を満たすものとすると説明しています。
介護人材の処遇改善等|職場環境等要件の見直し案取組区分となっている8つの項目から2つ以上を選んで実施する手間が省け、その分事務作業も簡略化されます。さらに、その他の算定や特例が取得でき、介護職員等処遇改善加算で上位加算を取得しやすくなるというのがメリットです。
まとめ
生産性向上委員会とは、短期入所系・居住系・多機能系・施設系サービスの各事業所における介護サービスの向上と職員の負担軽減を図るため、令和6年の介護報酬改定にて厚労省が導入を義務付けた方策です。本格導入が開始される令和9年までに3年の猶予が設けられていますが早いに越したことはありません。
令和6年度介護報酬改定の主な事項について手間暇はかかりますが、真剣に取り組んでいる事業所に対しては加算が取得できるメリットも用意されています。また、メリットを抜きにしても職場の環境改善は職員の負担軽減と利用者のサービス向上に繫ると思えば、利益の方が大きいと言えるでしょう。
年に一度、厚労省に提出するデータが委員会の活動記録となりますので、下記のページを参照して必要なものをご用意ください。
【補助金適用】ICTの活用、連携にBONX WORK
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情報共有の質を向上させたい、複数のICTの活用で上位算定を目指したいという事業所はぜひご検討ください。こちらのフォームから資料をダウンロードいただけます。
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